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国民投票法案の成人年齢の引下げに関する意見書


日弁連担当部署宛に個人的に送付した成人年齢の引き下げに関する意見書全文を公表しています。
なお、私は年長少年に対する死刑には反対ですが、死刑制度自体は存置の立場です。
※この意見書は2014年1月8日付のものです。
2015年5月17日に投票年齢を18歳からとする改正公職選挙法が成立し、近く、民法や少年法の適用年齢も引き下げられる可能性が高まってきました。そこで、筆者は「国際準則と諸外国の現状から考える成人年齢引き下げ後の望ましい若年成人法制の在り方について」という提言書を法務省、日弁連、最高裁、検察庁などに送付する予定でいます。


1.はじめに

 自民党の憲法改正推進本部は2013年12月18日、党本部で総会を開き、憲法改正手続きを定めた国民投票法の改正案について、改正法施行後4年間は投票年齢を「20歳以上」とし、その後は自動的に「18歳以上」に引き下げるとした与党の原案を了承し、自公両党の実務者は法制上の措置を講じるため、与党プロジェクトチーム(PT)を設置し、「4年」よりもできる限り前倒しをして18歳成人制を実施できるよう努力することも確認したようである。

 しかし、まず前提として、成人年齢の引き下げの議論は、わが国の制度設計を根本から変えるものであるから、本来、国民投票法とは切り離して、広く国民に周知されたうえで行われるべきものであり、国民の78%が議論されていることさえも「知らない」まま、また、国民の70%が18歳成人に「反対」している状況下で、国民投票法の「3つの宿題」などとして、「水面下」で議論され、それが次通常国会で「決まろうとしている」ことは極めて問題である。

 つまり、この問題は、国民投票法案自体の賛否云々以前の問題であり、18歳成人制に否定的な意見を有している日弁連より、これに対して早期に何らかの対策(会長声明の公表、新たな意見書の発表、政府への働きかけ等)を講じていただく、本意見書を執筆するにあたった。

2.18歳成人が少年法に与える影響について

わが国における問題

 民法の成人年齢が18歳に引き下げられた場合、18歳以上20歳未満の者には、親権が及ばなくなるのであるから、当然として、少年法の適用年齢も18歳未満に引き下げられることが必定である。

 そうなると、18歳、19歳の年長少年は、少年法の保護対象から外れ、成人同様の措置が下されることとなる。具体的には、若気の至りで起こした犯罪でも実名報道がなされ、少年審判にかけることができないので、保護処分(保護観察、少年院送致)の適用がなされなくなり、検察官送致された場合の相対的不定期刑の採用もなくなり、これは可塑性に富む年長少年の更生への扉を固く閉ざすものであって、大変問題がある。

 たしかに、近年、年長少年による凶悪殺人事件、たとえば、光市母子殺害事件、石巻3人殺傷事件のような事案に対しては、死刑が適用されるなど、成人同等の刑罰が科されているが、平成24年の最高裁の統計を見ると、犯行時年長少年であった者に対する処分別終局決定(道路交通法違反を除く)は、9159件の事案のうち、検察官送致が162件、保護観察処分が2501件、少年院送致処分が1038件、不処分が1600件、審判不開始が3835件となっており、今なお、基本的に、「少年の健在育成という理念の下」で処分が行われているのである。また、検察官送致となった場合であっても、判決宣告時に少年であれば、有期の懲役が相当のとき、その可塑性に鑑みて、短期の上限を5年、長期の上限を10年とする相対的不定期刑が採用されており(※注:2014年少年法改正により短期の上限は10年、長期の上限は15年に引き上げられた)、これが採用されなくなった場合、懲役20年、30年という刑の宣告が当たり前になる。

  さらには、たとえば、従来であればその立ち直りを期待して中等少年院あるいは特別少年院送致の保護処分が与えられていた強盗致傷事件について、実名報道されたうえで、懲役10年といった刑罰が科されることが頻発することが予測される。これは犯罪を行った年長少年に対する「矯正教育による再犯防止」に悪影響をもたらすものであって、強く非難されなければならず、この問題は日弁連としても、放置してはいけない問題であると考える。

 なお、18歳成人制をうたう民主党政権時代の法務省刑事局でさえ少年法適用年齢の18歳への引下げに消極的な見解を表明している。

諸外国の状況

 1980年までに、多くの国が、成人年齢を21歳から18歳に引き下げた(ただし、データがある187の国のうち、47国では成人年齢を引き下げていない)。

 しかし、諸外国の少年法制をめぐっては、成人年齢を18歳としている国では、18歳以上の者は当然刑事責任の緩和や保護的措置は行われていないという「誤解」が存在していることも問題である。

 旧未成年であった18歳から21歳の者については、たとえば、ドイツでは、年長少年または青年ないし準成人とし(ドイツ少年裁判所法1条2項)、犯情や精神的成熟度などを総合考慮し、成人刑法を適用するか、少年として扱うかを少年裁判所で最初に決め、少年として扱われることになれば、14歳以上18歳未満の者と同じ手続きになるという柔軟な措置が講じられており(州によって異なるが、少年として扱われる割合は全国平均で65%である)、そのうえ、成人として裁かれることになった場合でも、無期刑(15年後仮釈放の可能性があり、「直訳」すると終身刑となる)は科されず、10年以上15年以下の有期刑に緩和するという規定が置かれている(同106条1項)。

 また、スウェーデンでも、刑法29章7条1項で「ある者が21歳になる以前に犯罪を行った場合、その若さが量刑にあたって個別的に考慮されなければならない。この場合、その罪において規定されているよりも軽い刑罰を判決することができる」と規定されており、さらには、同2項において、21歳未満の者に対しては、無期刑(仮釈放の制度はないが恩赦による有期刑への変更が柔軟に行われている。「直訳」すると終身刑となる)を科することができないと規定されている。

 同様に、オーストリアでも、21歳未満の者には、無期刑(15年後仮釈放の可能性があり、「直訳」すると終身刑となる)は科されず、20年の有期刑が最高刑となっており(オーストリア刑法36条)、イギリスでも、21歳未満の者には、仮釈放のない無期刑(「直訳」すると仮釈放のない終身刑となる)は科されず、30年経過後に仮釈放の可能性のある無期刑を最高刑とし(量刑ガイドライン付則21章)、ポーランドでも、18歳以上21歳未満の者に対する刑事責任を緩和している。

 さらには、オーストラリアでも、ヴィクトリア州に限ったことではあるが、18歳以上21歳未満の若年成人には、一定の条件の下で、刑務所に代えて、少年司法センターに送致できるとされており、その適用率は過半数に達している。

 これらは、子供の権利条約に引用されている、「北京規則」3.3「本規則に掲げられた諸原則を、罪を犯した若年成人にも拡大して適用するよう努力が行なわれなければならない」とする規定に沿ったものであるといえる。

 そうすると、仮に、わが国で成人年齢が引き下げられた場合でも、わが国は、子供の権利条約を批准しているのであるから、若年成人(わが国の現状からすると、18歳以上20歳未満ではなく、18歳以上22歳ないし23歳未満が適当であると思われる)に対する何らかの緩和措置・保護的措置を講じることが必要であるが、諸外国の状況も周知されておらず、北京規則17.2「死刑は少年が行った犯罪に対しては科すことができない」も無視され続けており、成人年齢が引き下がられた場合、18歳以上の若年成人に対して、もはやそのような措置が講じられる余地も世論も存在しないので、結局、18歳以上の者は全て同じように裁かれることとなってしまう。それでいいのだろうか。

3.18歳成人制が児童福祉法に与える悪影響について

 児童福祉法については、2004年に里親委託が満20歳まで延長できることとなり、児童相談所長の親権喪失申立権および未成年後見人の選任・解任請求権が20歳未満に引き上げられ、さらには2007年の国民投票法可決後の2008年12月、自立援助ホームへの入所年齢が20歳未満に引き上げられており、つまり、児童福祉の分野では、部分的ではあるものの、「児童」の範囲を18歳未満から20歳未満に引き上げる方向で法改正が進んでおり、成人年齢の引き下げは、このような法改正に逆行するものであるといわざるをえない。

4.18歳成人制がその他の法律に及ぼす悪影響について

 成人年齢が18歳に引き下げられた場合、18歳、19歳の者に対する、消費者詐欺被害が頻発することが予想され、現状でも、20歳や20代前半の者に対する消費者詐欺被害が頻発しているものであって、より精神成熟度の低い18歳、19歳の者に対する消費者詐欺被害は、高齢者に対する詐欺被害と同様、詐欺の犯罪を助長させるものであって、この点からも慎重に検討されなければならない。また、内閣府の調査では、親の同意なしにアパートを借りたり、ローンを組んだりする契約ができる年齢を18歳とすることに8割が「反対」と回答している。

 また、疾学的な統計によれば、未成年者の喫煙はタバコへの依存や健康への悪影響をより強め、身長の伸長にも影響が出るものであり、また、個人差はあるが、身長は、18歳から20歳ぐらいまで伸びるものである。「未成年者飲酒喫煙防止法」では、20歳未満の者の飲酒・喫煙は禁止されているが、成年を18歳とした場合、飲酒・喫煙年齢も自動的に引き下がる可能性が高く、健康面、身体発育面からも与える影響が大きい(もっとも、これについては健康上の問題から据え置かれる可能性もないわけではない)。

 これは、高校生の喫煙を容認するものでもあり、そうすると、15歳から17歳の者も「先輩が吸っていて学校も容認しているから」「先輩に勧められたから」などという理由で、喫煙を開始することが懸念され、これは極めて重大な問題である。実際、内閣府の世論調査によれば、飲酒喫煙年齢の18歳への引き下げについて87%の者が反対している。

 なお、アメリカでは、成人年齢は18歳となっているが、飲酒・喫煙年齢が21歳以上となっている州が多い。また、日本で公営ギャンブル(馬券の購入等)が20歳以上となっているのと同様に、マカオではカジノの入場年齢を21歳以上としている。

 さらには、民法の成人年齢が引き下げされた場合、18歳以上20歳未満の者は、親の同意なしに結婚ができることになり、そうすると、18、19歳の者が単独判断で若気の至りで結婚し、子供を作るが育児放棄するといった事態が増えることが想定される。それでいいのだろうか。

5.おわりに

   以上のように、成人年齢の引き下げは、少年法、未成年者飲酒喫煙防止法、民法の未成年者保護に多大なる悪影響を及ぼすものであるから、日弁連は、会長声明の公表、新たな意見書の発表や政府への働きかけなど、速やかに措置を講じなければならないと考える。速やかに措置を講じないのであれば、それは日弁連としても、「水面下」で「確定」されようとしている、少年法適用年齢の18歳への引き下げ、18、19歳の者の喫煙・飲酒、児童福祉法分野での児童の範囲が部分的に拡大されている現状の崩壊、そして民法改正によってもたらされる数々の悪影響を「黙認」ないし「容認」するものであり、極めて問題であると考える次第である。


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