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昭和52年12月6日福岡高裁判決

主文
 原判決を破棄する。
 被告人を無期懲役に処する。
 原審における未決勾留日数中五〇〇日を本刑に算入する。
 押収してあるけん銃一丁及び登山用ナイフ一本を没収する。

理由
 本件控訴の趣意は、弁護人木下春雄提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 右控訴趣意(量刑不当について)。
 所論にかんがみ本件記録および原審において取調べた証拠に現われている被告人の情状を検討するに(中略)前示のとおり、被告人の刑事責任は余りにも重大であって、これらの原判決後の被告人に有利な事情は未だ原判決の科刑を変更させるに足りないものである。
 ところで、所論は原判決が原審における未決勾留日数を本刑に算入しなかったことについても、これを不当であるというのである。そこで、この点を考えてみるに、刑法二一条にいう「本刑」とは無期刑を含み、裁判所は無期刑を宣告する場合においても、未決勾留日数の全部又は一部を右無期刑に算入することを得るものであるから、未決勾留日数の通算の不当は本刑を無期刑とする場合においても、本刑を有期刑等とする場合と同様な意味において、広義の量刑不当として問擬するのが相当である。
 尤も、現在の行刑実務においては未決勾留日数を本刑たる無期刑に算入しても仮出獄の要件たる一〇年の期間の算出には何ら影響を与えないとされ、未決勾留日数の有無を問わず、仮出獄の要件としては無期刑の確定後一〇年の期間の経過を必要とし、又、個別恩赦の出願資格としても未決勾留の算入と関係なく判決確定後一〇年の期間を必要としている。
 しかして、無期刑における仮出獄の要件の算出に関する右の如き実務上の取扱いは、実際に執行せる処遇の結果を考慮して決定すべき仮出獄制度の趣旨にかんがみ理論的にも肯認できるものであり、仮に、かかる取扱いによらず未決勾留日数を刑法二八条所定の一〇年の期間の一部にそのまま算入すべきものとするときは、その未決勾留日数が極めて多い場合には有期刑より無期刑の方が早期に仮出獄の要件を具備するという不公平な結果を招来するので、かかる不当な結果を招来しないという意味においても、現行の実務上の取扱いの妥当性は否定できないところである。
 そうしてみると、無期刑に対する未決勾留日数の算入は、有期刑における場合と異なり、無期刑がのちに恩赦によって有期刑に変更されたときにのみはじめてその実質的効果を生ずるにすぎないものであるが、しかし右効果をいわれなく無視又は看過して無期刑における未決勾留日数の算入を無意味なものの如く取扱うことは許されないものであり、殊に、これまでの恩赦の運用の情況に照らしてみてると、本件被告人の如く犯した罪が殺人罪であり、年齢も未だ四〇歳に達していない被告人の場合、服役中に無期刑から有期刑に変更される蓋然性は否定しがたいので、当然に前記算入の効果を考慮すべきである。したがって、本刑たる無期刑に対する未決勾留の算入の当否は刑の量定に準じて検討さるべきものであり、その不当は広義の量刑不当として判断さるべきものである。
 そこで、右の見地から原判決の未決勾留日数の算入に関する当否を検討してみるべきところ、被告人は昭和五〇年六月七日本件殺人等の犯行により逮捕され、同月一〇日勾留され、同月二八日原裁判所に起訴されて、爾来身柄を拘禁されたまま審理を受け、同五二年三月三〇日第二〇回公判期日において原判決の宣告を受けたものであって、原審における未決勾留日数は計六五九日に達するが、原判決は被告人に対して無期懲役刑を科するに当り、右の未決勾留日数を全く算入していないことが記録上明らかであり、他面記録に現われる審理の状況等にかんがみるとき、右の勾留されていた日数が全て原審の審理に必要な期間であったものとは認められず、その他記録を精査しても原判決の右措置を是認すべき事由は見出し難いところである。
 かくして、被告人は無期懲役刑を相当とするものの、恩赦により、有期懲役刑に変更される蓋然性が否定できないことにより、未決勾留日数の算入の実益を有するものであり、原判決が本件において未決勾留日数を算入しないことについての特段の事由は認められないので、被告人の原審における一年九カ月を超える未決勾留日数を一日も本刑に算入しなかったことは不当であって、原判決はこの点において結局破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そこで、刑事訴訟法三七九条一項、三八一条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従ってさらに判決する。
 原判決の確定せる事実に法律を適用すると、被告人の原判示第一の各所為はいずれも刑法一九九条に、同第二の所為中けん銃所持の点は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二、一号、三条一項に、実包所持の点は火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当するが、右第二の各罪は一個の行為として二個の罪名に触れる場合であるから、一罪として最も重い銃砲刀剣類所持等取締法の罪の刑で処断することとし、各所定刑中原判示第一のAに対する殺人罪につき無期懲役刑を、Bに対する殺人罪につき有期懲役刑を、原判示第二の罪について懲役刑をそれぞれ選択し、Bに対する殺人罪と原判示第二の罪は原判示(1)および(2)の前科との関係で三犯であるから、刑法五九条、五六条一項、五七条により各累犯の加重をなし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから同法四六条二項に則り原判示第一のAに対する殺人罪の刑により処断して他の刑は科さないこととして被告人を無期懲役に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中五〇〇日を右本刑に算入し、押収してあるけん銃一丁及び登山用ナイフ一本は原判示第一の各殺人の犯罪行為に供し又は供しようとした物であって犯人以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項により没収することとし、なお原審における訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書に従い被告人には負担させないこととする。
 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 平田勝雅 裁判官 川崎貞夫 堀内信明)