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無期懲役とは



無期懲役刑について、様々な資料を元に、どのサイトよりも「詳しく」そして「正しく」説明したページです。マスコミに代わって、正しい情報を網羅的に国民に提供することを目的とします。


目次
  1. 無期懲役の定義と仮釈放制度の概要
  2. 無期懲役の仮釈放者・獄死者・年末在所者等の詳細な統計資料(一覧表)
  3. 仮釈放の運用の概況
  4. 「短期間で出所する」「ほとんどがいずれ出所する」という風説は誤り
  5. 「有期懲役の上限が30年に引き上げられたので30年は絶対に仮釈放されない」といった風説も誤り
  6. 最長服役者が61年という風説は誤りで実際は65年以上
  7. 無期懲役と終身刑の違いは本来は現地の用語の「直訳」の仕方の違いのただ一点だけ
  8. 各国の無期刑(Life imprisonment)の仮釈放条件期間と現地名称一覧表
  9. 絶対的無期刑について
  10. 有期刑仮釈放者の在所期間の統計資料
  11. マスコミ報道の問題点

▼1 無期懲役とは

具体的な解説表はこちらへ(別ウインドウで開きます)

 無期懲役の「無期」とは、刑期に「期」限が「無」い ことを意味し、これは刑期を定めない、あるいは刑期の上限を定めないという絶対的不定期刑を意味するものではなく、刑期の終わり(すなわち満期)が無い ことを意味する。
 英語では「Life(一生の) imprisonment(拘禁刑) 」との語が充てられるものであり(法令用語日英標準対訳辞書(平成20年3月改訂版)273頁、法務省刑事局「法律用語対訳集-英語編」179頁を参照)、無期懲役とは、それ自体の性格としては、受刑者をずっといつまでも永続的に刑事施設に拘禁する「一生の期間にわたる懲役刑」というのが、正確な「定義」である (法務省保護局「無期刑及び仮釈放制度の概要について」、大辞泉「無期懲役」、大辞泉「無期刑」、大辞林「無期刑」、司法協会「刑法概説(七訂版)」155頁、弘文堂「条解刑法 第2版」27頁、清原博「裁判員 選ばれる前にこの1冊」153頁)

 これに対して、 有期懲役 とは、刑期に「期」限が「有」る 、すなわち刑期に終わりがある ことを意味するものであり、たとえば、懲役20年とは、それ自体の性格としては、受刑者を20年間刑事施設に拘禁する「20年の期間にわたる懲役刑」 というものである。
 わが国の刑法では、有期懲役の最長期間は20年であるが、刑を加重する場合および無期刑 (無期懲役と無期禁錮を総称して無期刑という)を減軽して有期刑を(有期懲役と有期禁錮を総称して有期刑という)言い渡す場合は、その最長期間は30年である。

 刑期を定めない刑のことは、「不定期刑」 といい、その中には、刑期をまったく定めない、あるいは刑期の上限を定めないという「絶対的不定期刑」 と、たとえば「懲役10年以上15年以下」 というように、刑期の短期(下限)と長期(上限)を定めた上で、刑期に幅を持たせて言い渡す「相対的不定期刑」 とがある。
 前者は、刑罰の程度を法定する趣旨を没却することから、罪刑法定主義の派生原則として許されないものとされている
 後者は、わが国では、少年法52条に規定されており、有期刑相当の犯罪を行った判決時18歳未満の者に言い渡され、短期経過後、刑期終了(本釈放)による出所が可能になる。また、その短期は10年、長期は15年を超えてはならないと規定されている(2022年少年法改正前は判決時20歳未満の者を対象としていた)。

▼2 無期懲役受刑者が社会復帰可能なのは何故か

 前述のとおり、無期懲役とは、一生刑務所で服役する刑、懲役20年とは、20年間刑務所で服役する刑というわけであるが、無期懲役に処せられたのに刑務所から出てきたり、懲役20年に処せられたのに20年が経たないうちに刑務所から出てくることがあるのは何故なのだろうか。
 それは、刑法28条が、それぞれに「仮釈放」の可能性 を認めているからである。

 仮釈放制度とは、一定の要件(わが国では、刑法28条および社会内処遇規則28条に規定された要件)を満たした受刑者を「刑期の途中」において、条件をつけて釈放する刑事政策上の制度 であり、わが国の刑法では、年数的な条件期間として、無期刑 に処せられた者については刑の確定から起算して10年 の経過、有期刑 に処せられた者については(宣告刑期から未決勾留の通算・算入分を控除した)刑期の3分の1 の経過(すなわち、懲役15年の場合は「5年」、懲役20年の場合は「6年8ヶ月」、懲役30年の場合は「10年」の経過)、少年法52条の相対的不定期刑に処せられた者については短期の3分の1の経過によって、それぞれ仮釈放を許すことが可能となり、無期刑、有期刑、不定期刑ともに仮釈放の可能性を否定する制度はない。

 つまり、現行法上、それぞれ仮釈放の可能性が認められていることによって、実際問題としては、無期懲役といえども必ずしも一生刑務所から出られないわけではなく(すなわち、「一生という刑期の途中」で刑務所から出てこれる可能性がある)、懲役30年といえども必ずしも30年間刑務所から出られないわけではなく(すなわち、30年という刑期の途中で刑務所から出てこれる可能性がある)、「懲役10年以上15年以下の不定期刑」といえども必ずしも最低10年は刑務所から出られないわけではないということであり、短期の3分の1にあたる「3年4ヶ月」後に仮釈放を許すことが可能になる(ただし、実務上は短期経過前に仮釈放されることは少ない)。

▼3 無期懲役の定義に関する誤解

 現行法上、自由刑(懲役・禁錮・拘留など身体の自由を奪う刑罰を総称して自由刑という)の受刑者に「仮釈放」の可能性 を認め、その条件期間(仮釈放を許すことが可能になるまでの期間)を、無期刑については10年、有期刑については3分の1としている点に着目すれば、無期懲役は「懲役10年以上上限なしの不定期刑(絶対的不定期刑)」 のような側面を持ち備えており、懲役30年は「懲役10年以上30年以下の不定期刑(相対的不定期刑)」 のような側面を持ち備えているため、報道機関 などは、無期懲役の場合だけ、この点を捉えて、「刑期が10年以上としか決められていない刑」とか「刑期がいつ終わるか不明確な刑」などと説明しており 、このため、そのような誤解がひどく蔓延しているが、刑期(刑の性格:本来的な拘禁期間)と仮釈放制度によってもたらされる実際の拘禁期間は、分けて説明されるべきものであり、両者を混同した説明は適切ではない。

 もし、「刑期」が10年以上としか決められていないだけであれば、仮釈放(刑期途中における条件付釈放)のみならず、「本釈放」という形での出所もできるはずである。

 無期懲役についての一般的な議論において、最も嵌ってしまいやすい落とし穴は、刑期(刑そのものの性格)と刑期途中の条件付釈放(仮釈放制度)とが見事なまでに混同されてしまうことであるが、そうなってしまうと「誤った前提に基づいて議論」することになるため、刑そのものの定義を正しく知ることは、自由刑の在り方について論じるにあたって、なによりも重要になってくる。
 したがって、本稿を読み進めるにあたっては、この点について十分留意されたい。

▼4 仮釈放の目的

 仮釈放制度の目的は、画一的な拘禁によるデメリットを回避 し、受刑者に希望を持たせるとともにその改善更生にも役立たせることにある。

 もし、自由刑に処せられた者に仮釈放の可能性がなかったならば、たとえば、懲役5年の者の場合、過ちを悔いてどれだけ真面目に服役しても、逆にどれだけ不真面目な態度で服役 しても、画一的に、必ず5年間拘禁され、無期懲役に処せられた者の場合は、本人が改心し、慰謝の措置も講じ、社会や遺族の感情も緩和され、かつ相当長期の期間が経過し、かつ本人の犯罪性向も寛解したという場合であっても、画一的に、必ず一生拘禁されることになる。
  そのような場合、自由刑の目的の一つである「改善更生を促す」 ということが効果的に実現しがたくなるという問題が生じるため、希望を持たせて、改善更生に役立てるという、いわば「アメ」 のようなものとして「刑期途中の条件付釈放」である「仮釈放」の制度が存在しているのである(なお、有期懲役における仮釈放は、刑期終了後における社会復帰を容易にさせる目的も併せ持っている)。

 仮釈放は、批判の多い制度ではあるが、その有用性は否定できず、実際、仮釈放の制度は、近代国家にほぼ共通して存在しているもの である。

▼5 仮釈放の要件

 仮釈放が認められるには、その条件期間が経過していること(形式的要件)に加え、具体的な相当性・適格性(実質的要件)を満たしていることが必要であり、この実質的要件については、わが国では、刑法28条が、「改悛の状が認められること」 とシンプルに規定しているほか、法務省令である「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」28条が、仮釈放の要件について、より具体的に、「仮釈放を許す処分は、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない」 と規定している。

 加えて、同規則18条は、仮釈放審理にあたっては、「(1)犯罪又は非行の内容、動機及び原因並びにこれらについての審理対象者の認識及び心情、(2)共犯者の状況、(3)被害者等の状況、(4)審理対象者の性格、経歴、心身の状況、家庭環境及び交友関係、(5)矯正施設における処遇の経過及び審理対象者の生活態度、(6)帰住予定地の生活環境、(7)審理対象者に係る引受人の状況、(8)釈放後の生活の計画、(9)その他審理のために必要な事項」をそれぞれ調査すべき旨規定している。

 また、同規則18条の規定に照らし、同規則28条が規定している「悔悟の情」や「改善更生の意欲」「再び犯罪をするおそれ」「保護観察に付することが改善更生のために相当」「社会の感情」については、それぞれ様々な事項を考慮して判断すべき旨が通達により定めらており、具体的には、「悔悟の情」については、受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており、「改善更生の意欲」については、被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容、その措置の計画や準備の有無、刑事施設における処遇への取組の状況、反則行為等の有無や内容、その他の刑事施設での生活態度、釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断することとされており、「再び犯罪をするおそれ」は、性格や年齢、犯罪の罪質や動機、態様、社会に与えた影響、釈放後の生活環境などから判断することとされ、「保護観察に付することが改善更生のために相当」については、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがないと認められる者について、総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされており、「社会の感情」については、被害者等の感情、収容期間、検察官等から表明されている意見などから、判断することとされている。

 なお、被害者側の感情については、従来、「社会の感情」の一部であると考えられていたところ、被害者保護の充実を図る過程において、第166通常国会で成立した更生保護法では、2005年12月に策定された「犯罪被害者等基本計画」の趣旨に沿って、仮釈放の審理の際に被害者側が口頭ないし書面で意見を述べることが可能となり、2009年度からは無期懲役受刑者の仮釈放の審理にあたっては被害者側が拒否しない限りにおいて必要的に調査を行なう方針 が取られるようになった。
 これは、被害者感情への配慮・被害者保護の充実という観点から考えれば画期的 といえるものである。

 刑期途中の条件付釈放である「仮釈放」は、これらの要件が満たされたと判断された場合にはじめて認められるもの であり、すべての受刑者に仮釈放の「可能性」 はあっても、それが「前提」として保証されているわけではない。

 つまり、これらの要件が満たされない場合 には、本人の状況が改善されない限り、刑期と一致する期間、つまり、無期刑であれば一生涯 にわたって、有期刑であれば、刑の満期日 に至るまで拘禁されることとなる。


▼6 無期懲役の仮釈放者・獄死者・年末在所者の詳細な統計資料

 無期懲役の仮釈放者の在所期間や平均在所期間、獄死者数、獄死者の在所期間、年末在所受刑者の在所期間、仮釈放審理件数等の統計資料をまとめた表はこちらを参照。

▼7 わが国における無期懲役の仮釈放制度の運用の概況

 2021年末現在、無期懲役が確定し刑事施設に拘禁されている者の総数は1725人である。
 以下、わが国における無期懲役受刑者に係る歴年の仮釈放の運用について概説する。なお、便宜上、無期懲役の仮釈放を取り消されて服役し、再度仮釈放を許された者は除くものとする。

 まず、法務省保護局の資料および矯正統計年報(法務省司法法制部発行)を参照して、統計のある1977年から2022年までの無期懲役刑仮釈放者の平均在所期間 (未決勾留の期間を含まない)について見ると、1988年までは16年程度 であったが、1990年には20年3ヶ月 となるなど、1989年頃から長期化 の傾向が見られ、1989年から1996年までは18年〜20年余、1997年から2000年までは21年程度、2001年から2003年までは23年程度、2004年が25年10ヶ月、2005年が27年2ヶ月、2006年が25年1ヶ月、2007年が31年10ヶ月、2008年が28年7ヶ月、2009年以降は、各年とも30年を超え、2009年が30年2ヶ月、2010年が35年3ヶ月、2011年が35年2ヶ月、2012年が31年8ヶ月、2013年が31年2ヶ月、2014年が31年4ヶ月、2015年が31年6ヶ月、2016年が31年9ヶ月、2017年が33年2ヶ月、2018年が31年6ヶ月、2019年が36年、2020年が37年6ヶ月、2021年が32年10ヶ月、2022年が45年3ヶ月となっている。

 次に、仮釈放者の在所期間の分布を見ると、1996年、2000年、2003年、2008年を境にそれぞれ変容が見られ、1996年〜1999年は仮釈放者の約93%が在所18年超、2000年〜2002年は仮釈放者の約90%が在所20年超、2003年以降は、仮釈放者全員が在所20年を超えており、2008年以降は仮釈放者全員が在所25年を超えている。

 同様に、法務省保護局の資料により、未仮釈放の長期在所者に関するデータを見ると、無期懲役の確定から起算して30年以上在所している者の数 は、1985年2月末 には7人であったところ、2000年8月 には42人 となり、2022年12月31日現在 では298人 となっている(そのうち、40年以上となる者は76人であり、50年以上となる者は10人であり、最長は65年を超えている)。

 また、これも同様に、法務省保護局の資料などにより、無期懲役獄死者(無期懲役の仮釈放を取り消され、その服役中に死亡した者も含む)のデータについて見ると、1998年から2000年までの3年間に、26人が無期懲役の受刑に係る刑事施設拘禁中に死亡し、うち4人は獄死までの在所期間が25年以上であったことが判明しており、2013年から2022年までの10年間 では、計260人が無期懲役の受刑に係る刑事施設拘禁中に死亡 していることが判明している。
 一方、2013年から2022年までに仮釈放になった無期懲役受刑者は計81人 であり、仮釈放者よりも獄死者のほうが上回っている。
 このことからも、従前と比較して、無期懲役受刑者の仮釈放審理が慎重になされていることが伺える。

 このように無期懲役受刑者の仮釈放審理が慎重になされるようになった背景には、国民感情に加えて、1980年代から1990年代 に模範囚として仮釈放が許された者による重大な再犯事件が相次いだ ことにあるといえよう。

 なお、仮釈放の審理が慎重に行われるようになり、仮釈放の許可件数自体も減少しているので、少なくとも殺人などの重大再犯については、2004年以降に仮釈放になった者からは現在までのところ一件も出ていない。

▼8 超長期在所者の特徴

 仮釈放を許可されずに40年以上の超長期 にわたって刑事施設に拘禁されている者が少なくない。

 そのような者には、1.精神障害 (精神に障害のある者、特に医療刑務所に収容されている受刑者は通常の服役生活を営めないため、仮釈放の要件を満たさない)、2.刑務所内での規律違反の回数などが多く 刑務所内での処遇階級が低い、3.集団生活になじめない といった事情により工場に出れず独居処遇中である、4.老齢や病弱・痴呆 といった事情により特別の処遇を受けているため、処遇階級が上がらなかったり社会内での処遇が本人のために適当でない、5.適切な身元引受人がいない ため社会内での処遇がふさわしくない、6.社会内での生活能力がない 、7.犯罪傾向の非改善が明らかであり再犯のおそれが強いとみなされている (熊本刑務所・徳島刑務所といった長期刑累犯者を収容している刑務所に多い)といった特徴がある。

 一部で超長期在所者は罪責に関係するという意見が見られるが、罪責が近年重要視されているのはそのとおりであるが、罪責だけでなくその他の要件も極めて重要であるということは法務省の公式説明からも明らかである。

▼9 仮釈放中の保護観察(3号観察)制度

 わが国では、刑事施設から仮釈放された者に係る保護観察(3号観察)の期間を、刑期の残りの部分 とする残刑期間主義を採り、そのすべてにおいて、一般遵守事項のほか、特別遵守事項を定めた上で保護観察 を付し、保護司や保護観察官との定期的な面接等を課した上で、対象者の指導・監督・行状把握に努めており、対象者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき、あるいは再び犯罪行為に及んだとき には、不良措置として、仮釈放を取消し、施設内処遇に移行 させるものとしている。これが、わが国における3号保護観察の概要である。

 しかし、かねてから、この3号保護観察の制度が十分に機能しているのか、疑問視する声が各方面からあり、国民にも不安感を与えていたところ、2005年、愛知県安城市のショッピングセンターにおいて、短期の懲役刑に係る3号観察中に所在不明となっていた者が、幼児を刺殺するという非常に痛ましい事件が発生し、それを契機として、更生保護法が成立するなどして、取消措置の適切かつ柔軟な実施も含む保護観察の強化・充実が図られた。

 無期懲役の仮釈放者に係る3号保護観察については、残りの刑期もまた無期であるから、その残る生涯が保護観察の期間 であり、社会に復帰した場合であっても、(恩赦法8条による刑の執行免除を受けない限り)生涯を通じて、指導・監督がなされる。
 同様に、有期刑の仮釈放者に係る3号保護観察については、たとえば懲役30年の受刑者が18年で仮釈放になった場合、残りの刑期は12年であるから、保護観察の期間は12年間となる。

 近年、無期懲役仮釈放者の仮釈放後の処遇に際しては、過去の再犯事件の反省から、特に重点的に、保護司・保護観察官の連携を密にし、積極的な指導・監督、行状把握に努めており、遵守事項違反による仮釈放の取消措置(刑法29条1項4号)もより柔軟に活用しているなど、再犯防止策が充実しつつある。
 無期懲役の仮釈放が取り消された者は、無刑懲役囚として刑務所に戻ることになり、懲役30年で刑期を12年残して仮釈放になった者が仮釈放を取り消された場合、その者は、懲役12年の有期刑囚として刑務所に戻ることになるが、いずれの場合も再度の仮釈放が可能である。

▼10 仮釈放の手続とその判断過程

 仮釈放の手続の流れは、以下のようなものである。
 わが国では、受刑者本人には仮釈放の申請権はなく、刑務所側が、刑法28条の条件期間を経過し、かつ、社会内処遇規則28条の要件を満たしていると判断された受刑者について(このような判断を行なうのは、刑務所の矯正処遇官が中心となる)、刑務所長の名義で、管内の地方更生保護委員会に仮釈放の申出をし、申出を受けた地方更生保護委員会の委員が、書類審査および受刑者本人との面接を行なった上で、3人の委員の合議により、規則所定の要件が本当に満たされているかどうかを判断し、仮釈放の許可・不許可を決定する。

 ただし、2009年より、刑の確定後30年を経過した無期懲役受刑者については、刑務所長の申出によらず、地方更生保護委員会の権限で、一律仮釈放の「審理」がなされるようになった が、現在までのところ不許可になるケースのほうが圧倒的に多い。 また、そのときに許可されなかった場合には、その後10年経過後(つまり刑の確定から40年経過後)、再度、申出によらない審理がなされるようになった。

 しかしながら、法律上の刑務所長の申出による仮釈放の可能性はあり、現在でもそのようなケースは実際に存在している。
 また、刑確定後30年を経過し、申出によらない審理で不許可になったケースであっても、刑務所長による申し出による仮釈放の可能性はあり、40年を経過せず仮釈放されることもありうる。


▼11 「短期間で出所するor ほとんどがいずれ出所する」という風説は誤り

 前述のように、現在の制度上、無期懲役に処せられた者も、最短で10年を経過すれば仮釈放を許可することができる規定になっており、この規定と、過去において15年〜20年程度で仮釈放を許可されたケースが実際に相当数存在していたこと 、また仮釈放の運用状況が1990年代から次第に変化したものの最近になるまであまり公にされてこなかったこと から、「無期刑に処された者でも、10年や10数年、または20年程度の服役ののちに仮釈放されることが通常である」 といった風説あたかも真実であるかのように1990年代から2000年代において広まりを見せていった。

 しかし、このとき既に仮釈放の判断状況や許可者の在所期間などの運用は変化を示しており、そうした風説と現実の運用状況との乖離が高まった ため、法務省は、2008年12月以降、無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について情報を公開するようになった。

 また、同時に運用・審理の透明性の観点から、1.検察官の意見照会を義務化、2.複数の委員による面接、3.前述の刑執行開始後30年を経過した時点において必要的に仮釈放審理(刑事施設の長の申出によらない国の権限での仮釈放審理)の実施、4.前述の被害者意見聴取の義務化という4つの方針が採られることとなった。

 これにより、仮釈放の運用の点に限っては、誤解が緩和傾向にある。

▼12 「有期懲役の上限が30年に引き上げられたので30年は絶対に仮釈放されない」という風説も誤り

 他方で、近年、無期懲役受刑者における仮釈放について、困難性を強調しすぎる風説も見受けられ、いくつかのサイトではそれがあたかも真実であるかのように述べられている。 たとえば、「千数百人の無期懲役受刑者が存在するにもかかわらず、近年における仮釈放者は年間数人であるから、仮釈放率は0%台であり、ほとんどの受刑者にとって仮釈放は絶望的である」「2005年の刑法改正で、有期刑の上限が20年から30年となったため、無期刑受刑者は仮釈放になるとしても30年以上の服役が必定である」といったものがそれである。

 たしかに、2021年末時点において、1725人の無期懲役受刑者が刑事施設に在所しており、同年における仮釈放者は7人であったが、その約15%は仮釈放が可能となる10年を経過していない者であり、これに現実に仮釈放の対象になりにくい20年を経過していない者を加えると全体の約60%にも上るため 、これらの者(特に10年を経過していない者)を対象に加えるのは計算手法的に問題があり 、また死亡や新規確定、年数経過による入れ替わりはあるものの、ある受刑者がその年に仮釈放とならなくても、その受刑者が生存する限りにおいて連続的に、仮釈放となる可能性は存し続けるため、単純な計算手法によって算定できる性質のものではないことを留意しなければならない。

 また、刑法改正によって有期刑の上限が30年に引き上げられたといえども、仮釈放は無期刑・有期刑の区別にかかわらず存在しているため、現制度における懲役30年は「仮釈放のない懲役30年」ではなく、前述の規則28条の基準に適合すれば、30年の刑期満了以前に釈放することが可能であり、刑法の規定上はその3分の1にあたる10年を経過すれば仮釈放の可能性があることを留意しなければならない。
 仮に、重い刑の者は軽い刑の者より早く仮釈放になってはならないという論法を採れば、懲役30年は、懲役29年や懲役28年より重い刑であるから、前述の規則28条の基準に適合してもなお、それより早く(たとえば27年)で仮釈放になってはならないということになり、その場合、懲役刑に対する仮釈放制度そのものの適用が否定されてしまうからである。

 無期懲役と懲役30年の受刑者において、両者とも仮釈放が相当と認められる状況に至らなければ、前者は本人が死亡するまで、後者は30年刑事施設に収監されることになり、片方が矯正教育の結果仮釈放相当と判断され、もう片方はその状況に至らなければ、片方は相当と判断された時点において仮釈放され、もう片方は刑期が続く限り収監されることになるし、両者とも顕著な矯正教育の成果を早期に示せば、理論的にはともに10年で仮釈放が許可されることもありうるのであり、矯正教育の成果や経緯において場合によっては刑事施設の在所期間が逆転しうることは仮釈放制度の本旨に照らしてやむをえない面もある。

 もっとも、有期刑の受刑者については、過去では長期刑の者を中心として、刑期の6〜8割あるいはそれ未満で仮釈放を許可された事例も相当数存在していたが、近年においては多くが刑期の8割以上の服役を経て仮釈放を許可されており、このことからも、当該状況の継続を前提とすれば、将来において、無期刑受刑者に対して過去のような仮釈放運用は行い難いという一定の「間接的影響」は認められるものの、それ以上の影響を有期刑の引き上げに根拠づけることは理論的に不十分といえ、「有期懲役の上限が30年に引き上げられたので30年は絶対に仮釈放されない」といった風説は根拠を欠くと評さざるをえない。なお、前述したように、2009年より、刑の確定後30年を経過した無期懲役受刑者については、刑務所長の申出によらず、地方更生保護委員会の権限で、一律仮釈放の「審理」がなされるようになったが、この趣旨はすべての無期懲役受刑者に仮釈放の審査の機会を与えるものであって、無期懲役受刑者に係る仮釈放の余地を30年間「禁止」するものではなく、法律上の刑務所長の申出による仮釈放の可能性は従来どおり残されている。

 これは、A:無期懲役の定義(=一生の期間にわたる懲役刑)、B:仮釈放制度の意味(=刑期途中の条件付釈放)、C:懲役30年(=30年の期間にわたる懲役刑)にも仮釈放(=刑期途中の条件付釈放)があるということの3点を十分に理解していない者によって導かれた新たな「風説」であり、無期懲役に係る仮釈放制度の運用状況の点に限り誤解が緩和傾向にある現在では、この新たな「風説」も、「新種の誤解」として論拠を明示した上で指摘していかなければならないともいえる。


▼13 最長服役者が61年という風説は誤りで実際は65年以上

 2019年に在所61年0ヶ月の無期懲役受刑者E(80歳代)が仮釈放を「許可」されており、一部報道等ではこの受刑者が「日本一長く服役した無期懲役受刑者」とされているが、これは現在においても当時に遡っても誤りである。
 なぜなら、法務省資料を見ると、「2010年」に在所60年10ヶ月の無期懲役受刑者A(70歳代)が仮釈放の審理で「不許可」に、2021年に在所「65年0ヶ月」の無期懲役受刑者Bと在所62年8ヶ月の無期懲役受刑者C、在所61年1ヶ月の無期懲役受刑者D(いずれも80歳代)が仮釈放の審理でそれぞれ「不許可」になっている事実が確認でき、B受刑者は2019年時点でも在所63年でE受刑者の61年を上回っており、さらにA受刑者についても仮釈放が不許可になってから3ヶ月以内に死亡していなければ、E受刑者の61年0ヶ月を上回っていたことになるからである。
 なお、A受刑者については、存命であれば最後の仮釈放審理が終了したときから10年を経過した日から1年以内に再び仮釈放審理を開始されているので、仮釈放審理にかかる期間などを考えると、2023年の仮釈放審理のデータ(未公表)で在所70年台の受刑者がいなければ、既に死亡している可能性が高いことになる(2021年および2022年のデータでは在所70年台の受刑者はなし)。
 そうすると、「日本一長く服役した無期懲役受刑者」はA受刑者あるいはB受刑者であり、E受刑者は「仮釈放された無期懲役受刑者の中では最長」であるにすぎない(当時)。
 また、2022年には在所63年9ヶ月の無期懲役受刑者F・G、在所63年7ヶ月の無期懲役受刑者Hがそれぞれ仮釈放を「許可」されているが、F受刑者・G受刑者も当時のE受刑者と同様に「仮釈放された無期懲役受刑者の中では最長」であるにすぎない。


▼14 無期懲役と未決勾留日数

 無期懲役の言渡しをする場合でも、未決勾留日数の一部または全部を刑に算入することができるとされており、実際にも、多くの裁判例において未決勾留日数が無期懲役刑に算入されているが、無期刑は満期が来ることのない終生の刑であるため、その性質上、仮釈放を許すことが可能となるまでの最低期間からは引かれず、算入された未決勾留日数は恩赦などで有期刑に減刑された場合にしか意味を持たないものと解されている

 もっとも、未決勾留が長期に及んだ場合、仮釈放の検討の際に多少の考慮が払われることもありうるため、全く完全に意味がないというわけではない。無期懲役と未決勾留日数も参照。

▼15 少年法と無期懲役

 わが国の現行法制度下では、刑事責任能力を問える14歳から無期懲役を科すことができる
また、少年法51条1項は、罪を犯すとき18歳未満であった者について、本来死刑が相当であるときは無期刑を科す旨規定し、さらに、少年法51条2項は、本来無期刑が相当であるときも、10年以上20年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨規定している(2014年少年法改正前は10年以上15年以内と規定していた)。
 ただし、51条2項の規定は、「できる」という文面が示すとおり、同条1項のような必要的緩和とは異なる裁量的緩和であり、本来どおり無期刑を科すこともできるし、刑を緩和して有期の定期刑を科すこともできるという意味である。 
 ところで、51条1項については、こどもの権利条約に引用されている「北京規則」17.2では「死刑は少年が行った犯罪に対しては科すことができない」と規定されており、なおかつ、同規則3.3では「本規則に掲げられた諸原則を、罪を犯した若年成人にも拡大して適用するよう努力が行なわれなければならない」と規定されているから、これらの趣旨に照らし、特定少年(18歳以上20歳未満の少年)に対する死刑は裁量的に無期刑に緩和できるという規定が設けられるべきであると筆者は考える。


▼16 無期懲役と終身刑の違い

本来は、現地の用語の「直訳」の仕方の違いのただ一点だけ

 前述したように、「無期懲役」とは、それ自体の性格(定義)としては、受刑者をずっといつまでも永続的に刑事施設に拘禁するというもの、すなわち「一生の期間にわたる懲役刑」をいい、英語では「Life(一生の) imprisonment(拘禁刑)」ないし「Life(一生の) sentence(刑)」、独語では「Lebenslange(一生の) Freiheitsstrafe(拘禁刑)」、ロシア語では「Пожизненное(一生の)заключение(拘禁刑)」、ルーマニア語では「inchisoare corectionala(拘禁して労役させる) pe viata(一生)」、仏語では「Reclusion criminelle(拘禁して労役させる) a perpetuite(永続的に)」、中国語では「无期徒刑」、台湾語では「無期徒刑」との語がそれぞれ充てられる(法令用語日英標準対訳辞書(平成20年3月改訂版)273頁、成文堂「和独法律用語辞典」379頁、直野敦「ルーマニア語分類単語集」144頁、山口俊夫編「フランス法辞典」715頁、法務省刑事局外国法令研究会「法律用語対訳集-フランス語編」190頁、稲子恒夫「政治法律ロシア語辞典」302頁を参照)

 ただし、その「無期懲役」の中にも、刑期途中における条件付釈放である「仮釈放」の可能性を認めて社会復帰への希望を与えている制度(相対的無期刑)と与えていない制度(絶対的無期刑)の2種類があり、わが国の刑法は、前者の制度のみを採用している。

 一方、後者の制度は、仮釈放の可能性が認められていないため、その受刑者は、名実ともに必ず、ずっといつまでも永続的に刑事施設に拘禁される。このようなもののことを、英語では「Life(一生の) imprisonment(拘禁刑) without parole(仮釈放のない)」、仏語では「Reclusion criminelle(拘禁して労役させる) a perpetuite(永続的に) reelle(本当の)」と表現される。

 わが国では新聞やテレビの報道で、仮釈放の可能性を認めず名実ともに受刑者を必ず一生涯拘禁するものをこれまで「終身刑」と表現し、無期刑とは異なる別の刑と表現されているが、刑法的および国語学的には、無期刑と終身刑は別表現の同義語であり(大辞泉・大辞林「終身刑」を参照)終身刑にも、無期刑と同様、刑期途中における条件付釈放である「仮釈放」の可能性を認めて社会復帰への希望を与えている制度(相対的終身刑)と与えていない制度(絶対的終身刑)の2種類がある。

 上記のように、わが国の報道では本来の定義と反して、無期刑と終身刑は別の刑とし表現されてきた。
 すると、 報道用語の「終身刑」を英語にすれば「Life imprisonment without parole」が充てがわれるべきであるが、それにもかかわらず、わが国の報道では、これまで「Life imprisonment」を直訳的に「終身刑」と翻訳してきたため、それが伝え広げられ、このような報道機関の「ダブルスタンダード」が、海外(特にヨーロッパ語圏)では、「仮釈放の可能性を認めず、名実ともに受刑者を一生涯拘禁する制度」が一般的に採用されているとの誤解を広めさせることにつながった。
 また、そのような中で、「Life imprisonment without parole」を直訳的に「仮釈放のない終身刑」と翻訳することと、さらには、海外の仮釈放などの情報を容易に取得できるようになった情報網の発達が相まって、海外には「仮釈放のある終身刑」というわが国の無期刑とは「別概念」のものが存在するといった言説も拡大し、概念的な混乱は一段と広がることになった。

 これは、主にヨーロッパ圏の場合、「一生の期間にわたる拘禁刑」を表す現地の用語に、英語の「life」にあたる語が直接的に用いられているため、特に報道機関などから「終身刑」と「直訳」されることに起因するものであり、このような「直訳」が、かかる認識を蔓延させている根本的かつ決定的な原因となっている。

 しかしながら、法務省の資料や外国の自由刑に関する専門文献などでは、「無期刑」「無期自由刑」「無期拘禁」「無期懲役」と訳されているものが多く、「終身刑」と「直訳」されることは少ない。

 つまり、本来的には、無期懲役と終身刑の違いは、現地の用語の「直訳」の仕方の違いのただ一点だけである(例:台湾の「無期徒刑」(25年経過後仮釈放の可能性あり)や中国の「无期徒刑」(暴力犯罪および累犯の場合は仮釈放の可能性なし)を直訳すると「無期懲役」、ロシアの「Пожизненное заключение」(25年経過後仮釈放の可能性あり)やドイツの「Lebenslange Freiheitsstrafe」(15年経過後仮釈放の可能性あり)を直訳すると「終身刑」)。


▼17  諸外国における無期刑(Life imprisonment)

 「仮釈放のない無期刑(Life imprisonment without parole)」が、世界的にむしろ少数派の制度であるということは、過去の法務委員会答弁からも明らかであり、各国の刑法典に目を通してみると一目瞭然である。
 各国の刑法典(最新のものによる)を参照して、諸外国における自由刑の状況(刑罰体系)を見ると、有期刑のみを規定している国もあるが、多くの国において、無期刑(Life imprisonment)が規定されており、また、その比較的多数において、わが国と同様、仮釈放'(Parole)の可能性を認めている。
 仮釈放の要件については、国によって「社会適応性の真摯な兆候を示すとき」「再犯のおそれがないこと」「再犯のおそれがなく、かつ、刑事施設内で過去3年間規則違反がないこと」など様々であるが、これらの文面からもわかるように、前述した、わが国の刑法28条および社会内処遇規則28条が規定する要件が、諸外国と比較して少なくとも緩いということはない。

 もっとも、仮釈放を許すことが可能となるまでの最低期間(以下「仮釈放条件期間」という)は、国によってかなり異なる。
各国の刑法典を参考にして、各国の無期刑(Life imprisonment)の仮釈放条件期間について具体的に見てみると、たとえば、ベルギー仮釈放法は10年ドイツ刑法57条aおよびオーストリア刑法46条5項は15年フランス刑法132-23条18年(ただし、特別の判決をもって22年まで延長可。累犯者は22年。また、15歳未満の未成年者を故殺又は謀殺し、その前後または最中に強姦等の野蛮行為を行った者に対してはこれを30年まで延長できるなどの特例がある)ルーマニア刑法55条1項および韓国刑法72条1項は20年ポーランド刑法78条3項、ロシア刑法79条5項、カナダ刑法745条1項および台湾刑法77条は25年イタリア刑法176条は26年(ただし10年経過後、一定の要件下で外出・外泊可能)をそれぞれ仮釈放条件期間としており、英国では、裁判所が個別に仮釈放条件期間(タリフ)を定める法制を採っている。

 なお、欧州評議会の加盟国47国中46国が絶対的無期刑(絶対的終身刑)を禁止している。

 次に、仮釈放のない無期刑を置く法制を見ていくこととする。
 中国刑法81条は、無期刑の仮釈放条件期間を10年としているが、1997年の刑法改正により暴力犯罪および累犯により無期懲役または10年以上の有期懲役に処せられた者に関しては、仮釈放を許すことはできないとする規定が設けられた。しかしながら、中国刑法77条は、暴力犯罪であるか否か、累犯であるか否かを問わず、無期懲役から有期懲役への減刑の余地を認めている。
 また、米国では、多くの州において、通常の無期刑(仮釈放条件期間は各州の法制により15年〜35年)よりも重い無期刑として、仮釈放のない無期刑(Life imprisonment without parole)が置かれている。
 英国量刑ガイドライン附則21章は、犯時21歳以上の者による極めて重大な謀殺事案については、仮釈放条件期間であるタリフの期間を一生涯とすることができるとしていた。ただし、25年経過後、再審査によってタリフが有期のものへ変更される可能性があった。しかし、これは欧州人権裁判所より2013年に人権違反とされた。
 オランダでは、無期刑の受刑者には、仮釈放の余地は認められていない。スウェーデン刑法26章6条は、有期刑の受刑者には仮釈放の規定を置いているが、無期刑の受刑者には仮釈放の規定を置いていない。しかしながら、スウェーデンでは、無期刑の受刑者に対しては、全て恩赦により、有期刑(上限10年。加重要件を満たす場合は上限18年)への変更が行われている。
 ベトナムでは、有期・無期を問わず、仮釈放という概念自体が存在せず、それに代わるものとして、減刑の制度が置かれており、ベトナム刑法58条1項は、無期懲役に処せられた者には、服役12年後から減刑を可能とし、30年までの有期懲役に減刑されうるが、無期懲役での服役開始から起算して減刑後の釈放までに最低20年の服役を経なければならない(同刑法58条3項)。

 以上のように、仮釈放のない無期刑を採用する国は少数であり、その少数の国においても、減刑制度などがある例が多い。



▼18 各国の無期刑(Life imprisonment)の仮釈放条件期間と現地名称

各国の無期刑の仮釈放条件期間と現地名称について表にしたものはこちらを参照。


▼19 わが国における絶対的無期刑の議論

 2003年に「死刑廃止を推進する議員連盟」によって、仮釈放のない無期刑として、重無期刑(重無期懲役刑および重無期禁錮刑)を導入するとともに、死刑の執行を一定期間停止し、衆参両院に死刑制度調査会を設けることを趣旨とする「重無期刑の創設及び死刑制度調査会の設置等に関する法律案」が発表され、国会提出に向けた準備がなされたが、提出には至らなかった。
 しかし、2008年4月には同議連によって、再度「重無期刑の創設および死刑評決全員一致法案」が発表されたが、これも提出には至らなかった。なお、報道では終身刑と呼称されることが多い。

 なお、筆者は、絶対的無期刑を創設するのであれば、刑法28条の 「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」を「懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。 ただし、無期刑については裁判所が仮に釈放をすることができない判決をすることができる。」と改めるのが一番手っ取り早いと考えている。
 これでアメリカや中国と同様、日本の無期懲役に「仮釈放の可能性あり」「仮釈放なし」の2種類ができることになる。

▼20 刑法28条の改正の必要性

 前述のように、わが国の刑法28条は、仮釈放を許すことができるまでの最低期間を無期刑については10年、有期刑については刑期3分の1としている。
 これは国民感情にそぐわないばかりか、実際の仮釈放の運用状況と大きく異なっており形骸化してしまっている。

 刑法28条から仮釈放の規定を削除すると、どのような場合であっても、無期刑の場合、必ず一生涯にわたって、有期刑の場合、必ず満期日まで拘禁されることになるので好ましくはないが、実際の仮釈放の運用状況に照らして、仮釈放を許すことができるまでの最低期間を無期刑については25年、有期刑は刑期の2分の1に改正すれば、実態に沿ったものとなり、名実ともに死刑に次ぐ峻厳な刑となるであろう。なお、台湾は2006年に無期懲役の仮釈放条件期間を従来の15年から25年に引き上げている。

▼21 絶対的無期刑は必要か?

 前述のように、死刑を廃止し、仮釈放のない無期懲役を導入すべきであるという意見と死刑と仮釈放のない無期懲役を併置すべきであるという意見がある。
 筆者は、死刑制度には賛成の立場ではあるが(ただし、特定少年への死刑は反対)、仮に、死刑を廃止する場合、刑法28条を前述のように改正し(これは死刑の存廃に関係なく早急に改正が必要)、無期懲役受刑者の仮釈放の審理にあたっては、検察審査会制度に準じた方法で、その審理に国民を参加させるといった制度が最も望ましいと思われるし、仮釈放審理の「真の透明化」の観点からは死刑の廃止と関係なく直ちに実施するべきであろう。

 仮釈放のない無期懲役には、再犯防止という点で死刑と同じ効果があること、社会や被害者の感情の充足というメリットがたしかにある。
 しかしながら、犯人が改心し、遺族に慰謝の措置も講じ、長い年数が経って社会の感情や遺族の感情も緩和されてきたという場合であっても、必ず一生を刑務所にいなければならないことが「最初から決まっている」というのは、受刑者は自暴自棄になりやすく、処遇が困難になる者が増加するおそれがある。
 また、規律違反をしても、本人に不利益がないことから、反抗的になったり、他の受刑者、特に近々仮釈放になりそうな受刑者に対して嫌がらせをしたりする場合が想定されるため、他の受刑者と隔離するため専用の刑務所を作る必要性も出てくるといったデメリットもあるからである。


▼22 有期懲役にも「仮釈放」があるのに、なぜ「懲役20年」や「懲役30年」は批判されないのか?

 報道機関は、仮釈放制度の存在を捉えて、無期懲役を「刑期を10年以上としか決めていない刑」と説明している。

 仮に、この観点から、「懲役20年」を評価してみると、刑期の3分の1にあたる「6年8カ月」経過後に仮釈放の可能性が発生し、社会内処遇規則28条が規定する仮釈放基準に全く該当しない粗暴受刑者でも20年経てば必ず「満期釈放」され完全自由の身になる上、実務上の運用でも模範囚なら15、6年程度で仮釈放され、その後、4、5年無事に過ごせば完全自由の身になれる。これを、報道機関流に言い換えるならば、懲役20年とは、「懲役6年8ヶ月以上20年以下の不定期刑」であり、非常に軽い刑罰である。懲役20年の判決を受ける者といえば、通常、相当重大残酷な罪を犯した者である。そのような者が実務上は別として、理論上、わずか6年8ヶ月で仮釈放の可能性があるというのは初耳かつ驚きという読者も少なくないことだろう。しかし、報道機関は それをほとんど報道しない。

 同様に、懲役30年を評価すると、刑期の3分の1にあたる「10年」経過後に仮釈放の可能性が発生し、どのような受刑者でも30年経てば「満期釈放」され、模範囚なら20数年で仮釈放され、その後、5年〜10年無事に過ごせば完全自由の身になれる。

 無期懲役でも刑の確定から10年で仮釈放の可能性があるが、刑期が一生涯にわたるため、「本釈放」で出所することはありえず、20年、30年、40年、あるいはそれ以上服役して獄死という例も近年では相当数にのぼる。相当長期間の刑務所生活を経て社会に出れたとしても、それはあくまで「仮釈放」によるものであるから、それに比べ、懲役20年や30年というのは「報道機関流」に言わせればかなり軽い刑罰である。

 それなのに、懲役20年判決が出て「懲役20年といっても、6年8ヶ月で出れるんですよ」という報道や噂はほとんど聞いたことがない。それどころか、「懲役20年といっても、模範囚ならば15、6年で出れるんですよ」という実務に沿った報道や噂さえもほとんどされないのである。

 実のところ、「報道機関は本当は仮釈放に全くと言っていいほど関心がない」とさえ思える。


▼23 有期刑の仮釈放者の在所期間の統計資料

2000年以降の有期刑の仮釈放者の在所期間のデータをまとめた表はこちらを参照。


▼24 マスコミ報道の問題点

 ここまでの説明および資料を読んだ読者の多くは、マスコミ報道の異常性、つまり、報道機関が無期懲役と諸外国の刑罰制度に関して、今なお虚偽の情報を流し続けていることがお解りであろう。

 筆者も、大変恥ずかしながら、当ホームページを立ち上げた2007年より前までは、「無期懲役は、刑期を10年以上としか決めていない刑」「諸外国では、仮釈放の可能性がなく名実ともに受刑者を一生涯拘禁する制度が広く採用されており、それを終身刑といい、無期懲役とは別物」「無期懲役は平均20年ぐらい、早ければ15年程度、遅くても20年ちょっとで自由になり、下手したら懲役20年より軽い」といった認識を持っていた。

 しかし、文献や統計資料を基に、事実を知れば知るほど、マスコミ報道の問題点を深く認識させられ、マスコミへの見方が大きく変わった。

 そこで、「マスコミの誤解した報道」による無期懲役の定義と諸外国の刑罰制度に関する誤解の蔓延を防止することを目的とし、当ページ・当サイトを運営している。当ページは無期懲役刑について、様々な資料を元に、どのサイトよりも「詳しく」そして「正しく」説明したページであると自信を持っている。今後も、マスコミに代わって、国民に正しい情報を提供するため、当ページの一層の充実を図っていきたいと考えている。



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