そもそも、「無期刑」とは、刑期が終身にわたるもの、すなわち受刑者が死亡するまでその刑を科するというものであり、「無期」とは、刑期に期限がないことを意味し、短期を10年とし長期を終身とする相対的不定期刑でもなければ、刑期の上限を定めないという意味での絶対的不定期刑を意味するものでもない。したがって、無期刑が、刑法第28条によって「10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。」と定めていることから、実際には、相対的不定期刑のような運用がなされているとの指摘ならば正しいが、無期刑をもって一種の不定期刑であるとする主張は間違っていることになる。
つまり、「無期刑」とは、仮釈放が許されなければ、死亡するまで刑務所等の刑事施設で刑の執行を受けるものであって、仮釈放が許されたとしても、生涯保護観察に付されるのであるから、処遇方法が、施設内処遇から社会内処遇に移行しただけであって、恩赦がない限り、一生涯国の監督下に置かれるのが現実であるから、いわゆる「終身刑」であるということになろう。
受刑者の改善更生・社会復帰が、犯罪者処遇の基本理念であり、刑事政策の終局目標であることを考えると、罪を悔い改め、被害者に謝罪の意思を示し、再犯のおそれがなく、更生意欲のある無期刑受刑者は、1日でも早く社会に復帰させ、まともな人生を送らせるようにすべきであると筆者は思う。しかし、そのことと、無期刑の本質をどう考えるかとは次元の違う問題なのである。
現在の我が国の仮釈放制度においては、無期刑受刑者が仮釈放を認められるためには、刑の執行開始後10年が経過していることと当該受刑者に「改悛の状」があることの2つの要件を満たさなければならないのである。
この「改悛の状」については、「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」(いわゆる社会内処遇規則)28条に基準があり、具体的には、「仮釈放を許す処分は、悔悟の情および改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りではない」と定められている。
なお、「悔悟の情」や「改善更生の意欲」、「再び犯罪をするおそれ」、「保護観察に付することが改善更生のために相当」「社会の感情」については、次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められている。
例えば、「悔悟の情」については、受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており、「改善更生の意欲」については,被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容、その措置の計画や準備の有無ら刑事施設における処遇への取組の状況、反則行為等の有無や内容、その他の刑事施設での生活態度、釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断することとされている。また、「再び犯罪をするおそれ」は、性格や年齢、犯罪の罪質や動機、態様、社会に与えた影響、釈放後の生活環境などから判断することとされ、「保護観察に付することが改善更生のために相当」については、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがないと認められる者について、総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされている。そして、「社会の感情」については、被害者等の感情、収容期間、検察官等から表明されている意見などから判断することとされているのである。
筆者は、法律用語の正しい定義からすれば、無期刑と終身刑は同じであると考えるので、敢えて仮釈放のない終身刑を導入する必要はないと思う。 時として、恩赦がない限り死ぬまで必ず刑務所で過ごさなければならない刑を「終身刑」と称し、仮釈放のある無期刑のみが「無期刑」であるとして、両者を区別しようとする過ちを犯しているが故に、終身刑導入という、一見法律家にさえ分かりにくい議論が行われているのではなかろうか。
現行法上仮釈放がある無期刑は、終身刑としては機能していないというのであれば、世界でも、アメリカ、オーストラリア、オランダ、中国等、比較的少数の国にしか採用されていない「仮釈放のない無期刑」、つまり、「いわゆる終身刑」を導入することを検討する前に、現行制度としての無期刑受刑者の仮釈放のあり方について検討し、国民に分かりやすい制度となるよう改善策を講じることが先決ではないだろうか。そうすることが、結果的に、裁判員が適切な判断をするための手がかりとなるのではないかと思われる。
そこで、以下においては、法務省の「無期刑受刑者の仮釈放に係る勉強会」において、筆者が提言した内容を中心として、いくつかの改善策を提案してみたいと思う。
まずは、無期刑受刑者の仮釈放に係る情報の公開についてである。 これまでに、『犯罪白書等』において、無期刑仮釈放者の在所期間等については公表されていたようであるが、仮釈放が許されずに長期間収容されている無期刑受刑者や受刑中に死亡した無期刑受刑者に関する情報については、受刑者の心情の安定や改善更生に配慮して十分に公表されてこなかったきらいがある。
しかし、国民に対して可能な限り情報を提供し、制度の運用等について正確な理解を求めることは、今後、裁判員制度を適正に運用していくために必要なことである。無期刑の適切な執行や受刑者・仮釈放者の改善更生を不当に妨げる等の弊害が生ずることがないよう十分に配意した上で、国民に対し、より適切に情報を公開していくことが今後ますます必要であると思う。
次は、仮釈放審理の客観性・明確性の担保についてである。現在の仮釈放の運営は、個別の無期刑受刑者ごとにそれぞれの具体的事情を検討した上で、刑事施設の長の申出によって行われているが、その他に、地方委員会において在所期間が一定期間を経過した(例えば、30年)無期刑受刑者につき仮釈放審理を行うこととし、かつ、その判断結果を公表することにすれば、仮釈放審理の行われる時期やその結果が明らかになるので、無期刑受刑者に係る仮釈放審理の透明性をより高めることになるのではないかと考えられる。
最後に、無期刑受刑者に係る仮釈放審理においては、無期刑受刑者が重大な罪を犯したことにより、終身刑事施設に収容し得る者であることを考慮し、より慎重かつ適正な手続により行うべきであるとの観点から、今後、特に支障のない限り、複数委員による面接、被害者等に対する調査及び検察官に対する意見照会等を行うことが相当であると思う。
また、これは将来の課題であるが、無期刑受刑者の仮釈放審理においては、精神医学・心理学等の専門家から「人格鑑定」という形で意見を徴することを考えても良いのではないかと思われる。さらには、裁判員制度との整合性から考えて、選挙権を有する者の中から無作為に抽出した仮釈放審査員(仮称)を仮釈放審理に参加させることも考えられるであろう。
いずれにせよ、死刑と無期刑のギャップを埋めるために終身刑を導入すべきであるという見解に対しては、筆者は、無期刑の執行や仮釈放に関する国民の理解と実態の乖離を解消するために、適切な範囲で情報公開を促進すべきことや、受刑後30年を経過した時点で仮釈放審理を必然的に行うという方策を採用することが先決であると考える。
また、「無期刑」と「終身刑」は同じ概念であり、「仮釈放のある無期刑」とか「仮釈放のない終身刑」という言葉の用い方自体に問題があることは、すでに指摘しておいたところである。そうした意味からは、「無期刑の事実上の終身刑化」という表現はトートロジーであり、無期刑は本来終身刑であることの認識を欠いたものである。
無期刑は、「刑期が終身にわたるもの」、すなわち、「受刑者が死亡するまでその刑を科するもの」であり、この本質そのものを、国民に熟知させることが何よりも重要なのではあるまいか。そのためにも、無期刑の執行や仮釈放に関する国民の誤解を解くための努力が必要であり、情報公開と仮釈放手続の適正化こそが、現在、最も望まれる緊急な対応策であると筆者は思うのである。