森下忠「国際刑事司法共助と死刑・無期刑」    

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森下忠「国際刑事司法共助と死刑・無期刑」


高名な国際刑事政策学者・森下忠氏の著書「国際刑法の新しい地平」(2011年/成文堂)および「刑事政策大綱」(1993年/成文堂)に掲載されている内容が優れているので、引用(抜粋)し、ページにしました。


無期刑の問題(「国際刑法の新しい地平」260〜263頁より)

 無期刑にあたる罪(無期刑犯罪)は、死刑犯罪と同様に、それ自体、犯罪人引渡しの拒否事由となるか。著者が見た限りでは、犯罪人引渡条約でこれを肯定する明文規定を設けたものは存在しない。それは、死刑廃止国にあっては、多くの場合、無期刑が死刑に代わるもの(alternative to death penalty)とされており、かつ、無期刑についても法定の期間、服役すれば仮釈放の可能性が認められているからであろう。

 筆者の見解によれば、わが国には「終身刑」と「無期刑」という言葉があって、そこでは、「終身刑」という表現は、仮釈放なしの、文字どおり終身、つまり死ぬまで拘禁する刑という意味で用いられている。とりわけ、「終身刑」という表現は、死刑廃止論者によって死刑に代わるものとして提案されている。

 しかしながら、欧米語には、「終身」と「無期」を使い分ける言葉が存在しない。そのため、life imprionment(英)、Reclusion criminelle a perpetuite(仏)、Lebenslange Freiheitsstrafe(独)、pena con car′acter perpetuo(西)という言葉をそのまま受け取れば、文字通り無期限の刑、つまりいわゆる終身刑を指すかのごとき印象を与える。

 これに対し、イタリアでは、本来の終身刑にあたるものとして、′ergastoro′(徒役)という名の自由刑があり、「徒刑は無期である」(Le pena dell′ ergastoro e`pertetua)と規定されている(刑22)。歴史的には、′ergastoro′は文字どおり終身の地下牢の刑であって、死刑よりも恐れられたのだが、それは昔の話である。第2次世界大戦後、28年の服役後に仮釈放は可能とされたが、1986年法律663号により、26年間服役すれば、仮釈放が許されうることに改正された(刑176条3項)。

 1989年の子どもの権利条約37条(a)は、いかなる児童についても「死刑および釈放の可能性のない終身刑は、18歳未満の者が行った犯罪については科さないこと」と締約国に義務付けている。これによれば、′life imprionment without possibity of parole′とか′life imprionment stricto sence′(厳格な意味の無期刑)が、正確な意味での「終身刑」に該当することになる。

 そうだとすれば、単にlife imprionment(英)、Reclusion criminelle a perpetuite(仏)は、現下の文明国の法観念に照らせば「無期刑」(仮釈放の可能性あり)を指すもののように思われる。なぜならば、文字どおりの終身刑は、国際自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)第7条で禁止されている「非人道的な刑罰」(inhuman punishment)に該当するのみならず、同規約第10条3項ー「行刑の制度は、被拘禁者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む。」ーの規定に違反するからである。

 しかるに、龍谷大学刊『国際的視点から見た終身刑−死刑代替物としての終身刑』(2003年、成文堂)では立法例における′life imprionment′を一様に「終身刑」と訳している。同書の記述内容からすれば、この英語は「無期刑」と訳すべきものである。

無期刑犯罪に係る司法共助(「国際刑法の新しい地平」269.270頁より)

 日・EU共助協定11条(共助の拒否事由)1項(b)は、拒否事由として国家の「重要な利益」という中に、死刑犯罪のみならず無期刑犯罪についても、「請求国が死刑又は無期刑を執行しない」という保証をしない限り、「被請求国の重大な利益が害される」という解釈が盛り込まれている。

 ここで考えるべきは、無期刑犯罪における共助を(裁量的にせよ)拒否事由とするのは、EU加盟国の中で無期刑を廃止している国に限られるはずであるということである。ベルギー共助法が無期刑の場合につき規定を設けていないのは、無期刑が存置されていることによる。

 それはそれとして、なぜ、無期刑が死刑と同様の扱いがなされるのか。このような疑問をいだく者は著者だけではないであろう。しかも、国際社会全体にとって懸念の対象となっている最も重大な犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)でさえ、無期刑(Life imprionment、)を規定しており(規定77条1項)、しかも無期刑については25年服役後に、ICCによって刑を減刑するかどうかを再審査すべきこととされている(規定110条3項)。つまり、ICC規定によっても、仮釈放の可能性のない無期刑、言いかえると、いわゆる終身刑は規定されていない。

無期刑についての条件期間(「刑事政策大綱」290.291頁より)

 立法例について見るに、無期刑の定めのない国(たとえば、ポーランド)は別として、無期刑が存在する国にあっても、その仮釈放の要件が法文上(または文献上)明らかでない国が、少なくない。それらの国の中には、無期刑について仮釈放を認めず、恩赦による救済の途を残しているものがある。立法例では、かつては仮釈放を認めなかったが、その後、仮釈放を認めるようになった国(たとえば、イタリア)、仮釈放の条件期間を短縮する国などのように見られるように、一般に要件を緩和する傾向が見受けられる。

 今日、世界には無期刑の存在それ自体に反対する議論がある。そこで言われている無期刑は、巷間「終身刑」と呼ばれているもの、すなわち、仮釈放の認められない無期刑(imprionment for life without eligibilty for parole.カナダ刑法669条など参照)であって、それは「無血のギロチン」または「生きながらの埋葬」であるとして排撃されている。このような無期刑における仮釈放は、純粋の恩赦行為とされ、それについて受刑者はなんらの法的請求権もない。この制度における最大の難点は、恩赦権の行使が、不確実で、しかも極めてまちまちであることである。たとえば、ドイツでは、恩赦権がラント(州)に帰属しているため、無期刑受刑者に対する恩赦は、ラントによって20年後、30年後あるいは40年後に行われるという、堪えがたい不平等が生じていた。この不平等を解消するため、ドイツは、1981年の第19次刑法改正法で、無期刑について15年経過後に仮釈放を許すことができると改めた(刑57条a)。

(a)26年経過後とするもの→イタリア刑法176条3項(1986年の改正)
(b)25年経過後とするもの→ペルー
(c)20年経過後とするもの→アルゼンチン刑法13条、ギリシャ刑法105条
(d)15年経過後とするもの→スイス刑法38条、フランス刑訴729条3項、オーストリア刑法46条、チェコスロヴァキア刑法33条、ユーゴスラヴィア刑法56条3項、ドイツ刑法75条
e)10年経過後とするもの→ベルギー仮釈放法及び執行猶予法(1947年の改正による。ただし、累犯者については、14年経過後)


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